[nuclear]ドイツ放射線防護協会の提言を整理してみました [Food]
「日本における放射線リスク最小化のための提言」2011/3/20
http://icbuw-hiroshima.org/wp-content/uploads/2011/04/322838a309529f3382702b3a6c5441a31.pdf
ドイツ放射線防護協会
[ドイツ放射線防護協会の結論]
「評価の根拠に不確実性があるため、乳児、子ども、青少年に対しては、1kg あ たり 4Bq 以上の基準核種セシウム 137 を含む飲食物を与えないよう推奨されるべきである。
成人は、1kg あたり 8Bq 以上の基準核種セシウム 137 を含む飲食物を摂取しないことが推奨される。」
(セシウム137だけで子ども4Bq/kg、成人8Bq/kgなので、セシウム134,137合計では 子ども8Bq/kg、成人16Bq/kgになります)
この提言の元になる計算を検証しました。
【長期間残存する放射性核種】
長期にわたって体内に残存して影響を及ぼす核種に注目して、137Csを基準とした推奨値が算出されています。
[核種による半減期の違い]
核種 | 半減期(年) |
---|---|
137Cs(セシウム) | 30.2 |
134Cs(セシウム) | 2.06 |
90Sr(ストロンチウム) | 28.9 |
239Pu(プルトニウム) | 24400 |
最初に、食物に137Csが100Bq/kg、134Csが100Bq/kg、90Srが50Bq/kg、239Puが0.5Bq/kg含まれていると仮定します。
ベクレルをシーベルト(実行線量)に換算します。
乳児を例にとります。
それぞれの核種の実行線量は以下の通りとなります。
(E-8は10のマイナス8乗=0.00000001を表します)
核種 | 放射能濃度(Bq/kg) X 線量係数・乳児(Sv/Bq) |
---|---|
137Cs(セシウム) | 100 Bq/kg X 2.1E-8 Sv/Bq |
134Cs(セシウム) | 100 Bq/kg X 2.6E-8 Sv/Bq |
90Sr(ストロンチウム) | 50 Bq/kg X 2.3E-7 Sv/Bq |
239Pu(プルトニウム) | 0.5Bq/kg X 4.2E-6 |
(1年間の実行線量=1年間の摂取量(kg/年) X 放射能濃度(Bq/kg) X 線量係数(Sv/Bq))ですから、
{4つの核種の実行線量の和}に1年間の食物摂取量をかけると、1年間の実行線量になります。
325.5kg/年 X {(100 Bq/kg X 2.1E-8 Sv/Bq) + (100 Bq/kg X 2.6E-8 Sv/Bq) + (50 Bq/kg X 2.3E-7 Sv/Bq) + (0.5Bq/kg X 4.2E-6 Sv/Bq)}=6mSv/年
年齢によって食物の年間摂取量が違うので、これを以下の通りと仮定します。
乳児と同じように、それぞれの実行線量が算出できます。
年齢 | 年間食物摂取量(kg/年) | 137Cs線量係数 | 134Cs線量係数 | 90Sr線量係数 | 239Pu線量係数 | 実行線量(mSv/年) |
---|---|---|---|---|---|---|
乳児(1歳未満) | 325.5 | 2.1E-8 | 2.6E-8 | 2.3E-7 | 4.2E-6 | 6 |
幼児(1〜2歳) | 414 | 1.2E-8 | 1.6E-8 | 7.3E-8 | 4.2E-7 | 2.8 |
子ども(2〜7歳) | 540 | 9.6E-9 | 1.3E-8 | 4.7E-8 | 3.3E-7 | 2.6 |
子ども(7〜12歳) | 648.5 | 1.0E-8 | 1.4E-8 | 6.0E-8 | 2.7E-7 | 3.6 |
青少年(12〜17歳) | 726 | 1.3E-8 | 1.9E-8 | 8.0E-8 | 2.4E-7 | 5.3 |
成人(17歳以上) | 830.5 | 1.3E-8 | 1.9E-8 | 2.8E-8 | 2.5E-7 | 3.9 |
実行線量が高いほど、放射能の影響を受けていると言えます。
なので同じ汚染食物を食べていても、年齢が低いほど実行線量が高くなります。
次に、何ベクレルまでなら食べられるのかを計算。
137Csを基準核種とします。
[乳児の場合]
137Csが100 Bq/kg含まれている食物を飲食している乳児は、食物からだけで年間6mSvの被ばくをしていることになります。
(呼吸で吸い込む分や外部被ばくの放射能はここでは考えていません)
ドイツ放射線防護令第47条では住民1人あたりの被ばく線量の限界値は0.3mSv/年です。
137Csが100 Bq/kg含まれるものを食べて、6mSv/年の被ばくですから、これを限界値(0.3mSv/年)以下にするためには、137Csが(0.3/6 X 100)=5 Bq/kg以下のものを食べなくてはいけません。
[すべての年齢]
乳児の場合と同じように計算すると、食物に137Csの含まれる限界(Bq/kg)は下記のようになります。
年齢 | 137Cs放射能濃度Bq/kg | セシウム合計(134,137) | 推奨される上限値・セシウム合計(134,137) |
---|---|---|---|
乳児(1歳未満) | 5.0 | 10.0 | 8 |
幼児(1〜2歳) | 10.7 | 21.4 | 8 |
子ども(7〜12歳) | 8.3 | 16.6 | 8 |
青少年(12〜17歳) | 5.7 | 11.4 | 8 |
成人(17歳以上) | 7.7 | 15.4 | 16 |
[ポイント]
1. 被ばく線量の限界値を0.3mSv/年に設定していること
2. セシウム137 : セシウム134 : ストロンチウム90 : プルトニウム 239 の割合を、100 : 100 : 50 : 0.5と仮定していること
<2011.05.25追記>
ドイツ放射線防護協会について調べてみましたが下記で良いのでしょうか?
Gesellschaft für Strahlenschutz
Society for Radiation Protection
http://www.gfstrahlenschutz.de/en/index.html
Wikipedia"Gesellschaft für Strahlenschutz"
http://de.wikipedia.org/wiki/Gesellschaft_f%C3%BCr_Strahlenschutz
<2011/7/23追記>
上記の計算は「セシウム137 : セシウム134 : ストロンチウム90 : プルトニウム 239 の割合を、100 : 100 : 50 : 0.5と仮定」しています。
これまでは降下物の実際の割合がどうなっているのかわかりませんでしたので、これを仮定としていますが、福島県での土壌汚染調査結果を見つけました。
【大熊町内の土壌汚染調査結果について】大熊町公式ホームページ(臨時版)
http://www.town.okuma.fukushima.jp/m/grd_20110525.html
魚拓 http://megalodon.jp/2011-0723-1822-43/www.town.okuma.fukushima.jp/m/grd_20110525.html
表にしてみました。
セシウム137を100とした時、プルトニウム239・240は0.0でした。
上記計算で仮定したほどプルトニウムは実際は多くないようですね。
【関連記事】
[nuclear]食品の放射能測定についてまとめ 2011-07-28
[nuclear]国の暫定基準値は本当に高いのか?を考えてみた(食物編) 2011-05-28
*発表された実際の放射能量については、以下の2つにまとめました。
[nuclear]食品汚染グラフを作ってみました(乳・肉・卵編)2011-05-21
[nuclear]食品汚染グラフを作ってみました(野菜編)2011-05-19
[nuclear]食べ物飲み物への放射線の影響を考えてみた 2011-03-21
はじめまして。
先日地元自治体に学校給食について要望書を出しましたが、国の暫定基準値以内のものを使用しているので安全だの一点張りでした。
その基準値が危険であるという資料を次回は提示しようと思い、探していてこちらに来ました。私はほんとに計算とか苦手でして、正直拝見しても理解するのが大変です。ふじくろさんのようにささっと計算される方が近くにいたら楽なんですけど。これからも勉強しにちょくちょく伺います。
by 橙 (2011-08-20 04:41)
>>橙さん
はじめまして、こんにちは。
ふじくろの住んでいる横浜市でも学校給食が問題になっています。
保護者の方たちは心配ですよね。
計算はかけ算と足し算だけで見た目より簡単なのですが、この記事の整理の仕方の問題でわかりにくいかもしれません。(^◇^;)
計算値の誤りや「どうしてこれはこうなったの?」というような疑問があれば、どしどしコメントしてください。
今の暫定基準値が安全かどうかは、様々なご意見があるようですね。
最終的には、年間の(食物からの)実効線量をどこまで許容できるのか?…ということになるのだと思いますが、難しい判断だと思います。
by ふじくろ (2011-08-25 22:45)